医薬品メーカーに求められる清浄度クラス
GMPの基本原則は次の3つである。
1)人的ミスの最小化、2)医薬品の汚染・劣化の防止、3)高いレベルでの品質確保が可能なシステムの設計。これらは、製品の品質確保に関する重要な要素でもあります。生産ライン全体を閉鎖空間(クローズドシステム)に置くことはできないため、汚染に強く、品質の劣化を防ぐ生産環境を作り、維持することが、標準的な医薬品を作るための最も重要な要素となります。汚染されにくく、品質が劣化しない生産環境を確保するためには、その生産環境を一定のレベルで清潔に保つことが必要です。
塵や空気中の微粒子、必要に応じて温度、湿度、気流などを制御できる閉鎖空間をクリーンルームと呼びます。クリーンルームの性能は、ある一定の空気量に存在が許容される微粒子の数と大きさによって分類される清浄度で表されます。廃止されたものの、従来から米国の連邦規格209Eで提案されている清浄度分類が長く使われていました。しかし、最近になってISO14644-1の制定に伴い連邦規格209Eは廃止され、ISO規格に取って代わられることになりました。ISO 14644-1では、清浄度クラスを空気1m3あたりの特定サイズの粒子の最大許容数で規定しており、クリーンルームの共通規格として広く使われています。
工業用クリーンルームとは、半導体や精密機械の製造に使用されるクリーンルームを指すことが多く、医薬品や食品の製造に使用されるクリーンルームは、微生物制御の機能も必要なことからバイオロジカルクリーンルームと呼ばれています。特に無菌製剤の製造環境については、その必要な清浄度クラスレベルがGMP要求事項として記述されています。 米国、EU、日本の3つの規制当局は、無菌製剤の製造環境の清浄度に関する独自のガイドラインを採用しています。米国FDAは「Guidance for Industry Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing Current Good Manufacturing Practice」、EUは「EU GMP Annex1」、日本では「Guidance on the Manufacture of Sterile Pharmaceutical Products by Aseptic Processing」として厚生労働省令で規定されています。
一方、固形剤などの非無菌製剤の環境については、WHOが2011年にWHO Technical Report Series, No.961, 2011のAnnex 5で「非無菌製剤の加熱・換気・空調システムの適正製造規範」に関する補足ガイダンスを発表していますが、他に具体的な指定を示す公式ガイドラインはありません。したがって、各メーカーは通常、無菌製剤に関する明確な指定のあるガイダンスを参考にして、製造のための管理クラスレベルを設定しています。実際には、ほとんどのメーカーは、製造エリアをクラス100,000 “at-rest:非稼働時”のレベルで管理しています。
詳細な規定が少なく、またガイダンスも異なるため、個別のケースに適用するためには、経験豊富な医薬品製造や施設設計の専門家の指導を受ける必要があります。